*本記事は「まるわかり! 5Gビジネス2022 (日経ムック) 」からの引用です。本誌はこちらからご購入いただけます。

同時多発的な変革に備えデータを蓄積し分析するフェーズ

―5Gの普及により、IoT社会の発展が期待されています。どのような変化が起こり得るでしょうか。

長期的に産業界全体に大きな影響を与えると考えますが、直近の2~3年において、すぐに何かが大きく変化するというものではないとみています。まずはデータを蓄積し、その後にAI等が開発されていき、実感を持って「変わった」となるのは恐らく4~5年後になるのではないでしょうか。

現時点で、変化がないように感じられますが、5年先には同時多発的に様々な分野で変化が起きると思っています。例えば現在においても無人のコンビニエンスストアやスーパーが実験的に運営されていますが、IoTの浸透と共に全世界的に展開されるのは2025年ぐらいだと予測しています。無人コンビニ等のロジスティクスだけでなく、製造業やサブプライチェーンマネジメントなどで変貌が訪れるだろうと見ています。

―通信インフラの向上で、AIが活用される領域は増えていきそうですか。

容量のデータが高速でやり取りされる過程において、それらを分析するにはAIが欠かせないものとなります。極論、AIがなければ何もできな状況になりつつあると思います。
米国のスタートアップ企業にクリアメタルがあります。彼らはロジスティクスのビジネスを展開していますが、リアルタイムで荷物がどこにあるのか把握できるサービスを提供しています。日本ではラストワンマイルを含め、物流システムが発達していますが、国土の広い米国では荷物がいつ届くのかわからない状況が一般的でした。彼らは正確な納品時刻がわかるAPIを作り、それを配達業者やECサイトを利用するコマース側にも提供して、大きな評価を得ました。

キーワードはリアルタイムで起きていることの把握です。IoT社会における大きな変化の1つとして、製造業や医療、飲食など様々な分野で発展するとみており、大きな可能性があります。また、AIで活用の可能性を広げているものに「お客様との対話」があります・これまでは顧客とコミュニケーションを取ろうとすると、コールセンターを開設するなど、大きなコストを伴いました。しかしAIがお客様とのコミュニケーションのほとんどを行い、難易度の高いやり取りだけを社内のスタッフが担当するという住み分けによって、スリムで効果の高い運営ができ、顧客の満足度向上も図れます。

―最新のチャットボットは、人間並みの回答機能を備えていると言います。

データの蓄積でAIは進化しますし、アルゴリズムの発展も要因の1つになるかと思います。最近、注目されている自然言語分野のAIで、GPT-3があります。これは言語を認識し自ら文章を書く能力があるAIで、人間が書いたブログと区別がつかないほどの完成度を実現しています。コンテンツによっては人が書いたものより評価が高い文章もあります。

従来、AIを通じた対話では音声認識によるインプットの向上が先行して進んでいましたが、アウトプットでも自然な受け答えができる段階になり、さらに人間に近いサービスを提供しています。すでに中国ではローン支払いの督促で、AIが電話をかけ、相手と受け答えをするまでに進化を遂げているとのことです。

人間にしかできないことを突き詰め、着実な成長を目指す

―通信技術やAIの進歩によって、私たちの働き方にどのような影響を及ぼしそうでしょうか。

アブダクションという言葉があります。これは仮説検証を意味するのですが、つまり抽象度が高いところに立って考えるということです。この分野についてAIはまったく対応できません。AIは限られた範囲の中で、1日に最適解を10万回見つけるといった膨大なデータ処理を得意とします。しかし経験のないことに対してはまったく対応力を失います。

人間は、未経験の状況でも「こういうことじゃないか?」と仮説を立てて考えて実践し、判断します。これは人間の働き方のキーとなる部分であり、アブダクションについて人間がメインで活躍する領域になると考えられます。アブダクションが必要な分野は5つあり、クリエイティビティ、マネジメント、ホスピタリティ、イノベーション、エキスパートです。

さきほどのGPTー3で言えば、検索エンジンに掛かりやすい記事は書けますが、小説や詩などの人の感情に訴える文章の創作はまだまだ困難です。NDA(秘密保持契約)といった専門性のある分野でも、文面からリスク対処の判断を行うことはできますか、新しい法律ができた際に、どのうような影響を及ぼすのかを文書から予測することはAIにはできません。

これらのように抽象度が高い業務については人間が深く関わる必要があります。AIによって人の仕事が奪われるといった議論がありますが、裏を返せば、危険やストレスを伴う仕事の一部をAIに代替させることができるということです。生き生きと働くことを主眼にとらえれば、「役に立っている」と思いがちな職務への呪縛から解放されると思うのです。こう考えれば、もしかしたら、人材教育の観点も今後変わってくるのではないでしょうか。

“Update Your Dream” 叶えたい夢を更新していく

―これからの時代の働き方についてどのような気構えが大切だと考えていますか。

「アップデート ユア ドリーム(Update Your Dream)」。つまり叶えたい夢を更新することです。自分自身がいまできることは限られています。しかし1年後は成長しており、視野も広がっているはずです。環境もどんどん変化していっているので、自分がしたいことをアップデートしていく、これが私自身の考え方になります。振り返れば、学生の頃には5Gで常時接続が可能になる未来は想像すらしていませんでした。良い方向に進んでいると思いますが、一方で地球環境の問題もあります。

AIの発展や通信が進化すれば、本当に必要なものだけが創られる未来も見えてくると思います。全体最適と個人の幸せをそろえることは、人間にしかできないことですし、私たちが向き合っていくべき課題だと思います。人生には意味がある。変化を恐れず、むしろ楽しむ前向きな姿勢がとても大切です。

シナモンAI 平野未来シナモンAI 代表取締役社長CEO 平野未来

シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。IOS/ANDROID/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外の様々な賞を受賞。また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。2021年より内閣府経済財政諮問会議専門委員、「新しい資本主義実現会議」有識者構成員に就任。東京大学工学部アドバイザリーボード。プライベートでは2児の母。

シナモンAIでは、コンサルティング、ワークショップ、ソリューションの提供を通じて、「AIを競争戦略に結びつける」お手伝いをさせていただいております。ぜひお気軽にお声がけをいただけましたら幸いです。

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