ハーベストループとは

ジェフ・ベゾスがAmazon創業前に、1枚のループ図を描いたという有名な話があります。これは大量の商品を仕入れればそれだけ安く売れるようになり、商品を安く売ることができれば、顧客が増えてさらに多くの商品を仕入れられるようになるという、“勝ち続けられるループ”でした。 

私たちが提唱するハーベストループ、競合優位性を高めるためのフレームワークです。これは近年多くの企業が策定に取り組んでいるPurpose(パーパス)、つまり根本的な存在意義を考える上で、非常に重要な考え方であると言えます。 

ハーベストループの構図については、下記のような図で説明することができます。 

4つのボックスについて順に見ていきましょう。まず「機能」とは、ここではAI技術を指しており、つまりどのような予測を行なうのかということを意味します。次に「アプローチ」は、AIをどのように提供するかという手法のこと。AIというと自動化が前提に思われがちですが、実際には人とAIの共生が前提となります。 

そしてこれに続く「エンド・バリュー」の内訳は、主に売上増大、業務効率改善、リスク削減、UX向上、R&Dの5つです。これらのバリューをもって「UX(顧客体験)」が生まれるのであり、このフローを経ることでAIはデータを蓄積していくことになります。 

蓄積したデータはさらなるAI機能の強化に通じ、これを繰り返すことでエンド・バリューや顧客体験は右肩上がりに上昇していく。これがハーベストループです。 

これを自動運転車の技術にあてはめて考えてみましょう。この場合、まずAIが果たす「機能」とは事故予測のこと。そして「アプローチ」は、ドライバーに対してアラートを鳴らすこととします。そこで生まれる「エンド・バリュー」は事故リスクの削減であり、ドライバーにとっては安心・安全という「UX(顧客体験)」が得られることになります。 

このループが完成していることで、車を走らせれば走らせるほどAIは独自のデータを収集することになります。たとえば、そのドライバーが頻繁に通る交差点の状況や操作上の癖などのデータが蓄積されることで、AIはよりパーソナライズした事故予測を行なえるようになり、精度は右肩上がりに向上していくのです。 

最初に設定すべきは「UX(ユーザー・エクスペリエンス、顧客体験)」

では、こうしたフレームワークに基づいてハーベストループを完成させるにあたり、企業はまずどのボックスから埋めるべきかというと、それは「UX(顧客体験)」であるべきだと私は考えます。 

企業が目指す顧客体験は、Purpose(パーパス)に通じます。そして、なぜその企業が存在するのかという存在意義を突き詰めていけば、自ずとユニークバリュープロポジション(UVP)を考えなければならないでしょう。 バリュープロポジションとは顧客がその商品を購入する理由であり、ユニークバリュープロポジションとはそれをさらに向上させた、他社にはない唯一無二の購入理由のこと。つまり、バリュープロポジションをKPI化し、それを最大化させたものを「UX(顧客体験)」とすべきなのです。 

KPIというと一般的に、売上げや利益などファイナンシャルな数値に目が向けられがちですが、ユニークバリュープロポジションを生むのは顧客視点のKPIです。 

たとえば、ウーバーイーツのようなフードデリバリーサービスの事業モデルで考えてみた場合、「UX(顧客体験)」は食事をつくる手間が省け、自宅に料理が届くという体験です。そして、ここでのKPIを仮に「注文から料理が到着するまでの時間」と設定すると、現状は30~40分といったところでしょう。このKPIの最大化を考えるなら、究極的にはオーダーから1分で料理が届くような世界がイメージできます。すなわち、「エンド・バリュー」は「UXの向上」です。 

では、実際にこのKPIを実現するにはどうすればいいのか。「アプローチ」はオーダーから1分で料理を届けることであり、そのためにはまずエリアや時間帯を絞り、ニーズを正確に予測する必要があるでしょう。丸の内エリアのランチタイムでは、お好み焼きがおよそ何食分、ラーメンがおよそ何食分、天丼がおよそ何食分のオーダーがある、といった正確な予測が立てられれば、それに基づいてあらかじめ料理を格納した配達員を回遊させておくことできます。 

オーダーを受け、配達員が回遊するほどデータは蓄積されていき、やがては時間単位のニーズの微妙な変化、天候や気温によるニーズの変化といった、細かな点まで踏まえた予測が可能になるでしょう。 

ここで重要なのは、「手元にあるデータをどう活用するか」を考えることではないということです。理想的ハーベストループを完成させるには、目標として見据える「UX(顧客体験)」起点のPurpose(パーパス)が先にあり、それを実現するために必要なデータは何か、と考えるべき。AIの活用を目指す多くの企業が、この点を誤解しているように感じます。 

もし、目標実現のために必要なデータが手元になければ、それを獲得する努力をすればいい、というのが私たちの考え方です。つまり、フレームワークの「機能」のボックスが埋まるのは最後でいいのです。 

顧客体験を起点としたパーパス策定とハーベストループ。ぜひ皆さんも自社の事業モデルに合わせて考えてみてください。 

シナモンAI 平野未来シナモンAI 代表取締役社長CEO 平野未来

シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。IOS/ANDROID/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外の様々な賞を受賞。また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。2021年より内閣府経済財政諮問会議専門委員に就任。プライベートでは2児の母。

シナモンAIでは、コンサルティング、ワークショップ、ソリューションの提供を通じて、「AIを競争戦略に結びつける」お手伝いをさせていただいております。ぜひお気軽にお声がけをいただけましたら幸いです。

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