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シナモンAI主催ウェビナーレポート「リモートワーク下におけるAI/DX」
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シナモンAI主催ウェビナーレポート「リモートワーク下におけるAI/DX」

去る2020年12月17日、シナモンAI主催ウェビナー「リモートワーク下におけるAI/DX」が開催されました。
コロナ禍においてリモートワークが広がる中、社内外のコミュニケーションは大きく変わりつつあります。具体的にどのような変化があり、どのようなメリットや課題があるのか。そして、どのような取り組みが必要になっていくのか。約1時間に渡るセミナーの模様をレポートします。

登壇概要

■登壇者
五石 順一 様(株式会社ロゼッタ 代表取締役CEO)
平野 未来(株式会社シナモン 代表取締役社長CEO)
堀田 創(株式会社シナモン 執行役員フューチャリスト)

■司会進行
家田 佳明(株式会社シナモン 取締役副社長)

登壇者紹介

■株式会社シナモン代表取締役社長CEO 平野 未来 より

株式会社シナモンは、AI(人工知能)に関連するプロダクト開発やコンサルティングサービスを提供しています。東京大学大学院時代にレコメンデーションエンジン等の研究に従事していた平野氏は堀田創氏と起業。その後、会社を売却し、シナモンを立ち上げました。

平野は、現状ではビジネス AIはコスト削減を目的として導入されること多いが、企業の成長戦略を目的として導入することが重要だと指摘します。同社の事例として取り上げたのは、ギークピクチュアズ株式会社に提供しているアニメのセル画へ自動着色するソリューションです。直接的にはコスト削減効果が期待できますが、今までこれらの着色業務の多くを海外にアウトソースしており、AIに代替することで技術の流出を防止したり、日本国内でのアニメーターの育成に注力できたりと、成長戦略としてのAI活用として約数十億円億円単位での事業創出につながると考えていると述べました。そして平野は、成長戦略としてAIを活用するために「ダブルハーベスト」というフレームワークを提唱します。これは業務効率改善、リスク削減、収益強化、UX向上、R&Dという5つのエンドバリューを戦略に転換するためのフレームワークです。例えば、アニメ制作会社の場合、AI活用の目的は業務効率改善ですが、最終的にはコストリーダーシップ戦略を取ることが可能になります。

■株式会社ロゼッタ代表取締役 五石 順一 氏より
2004年創業の株式会社ロゼッタは、AIによる自動翻訳、機械翻訳の開発・販売を行っています。五石氏は創業当初を振り返り、次のように話します。

「当社が開発したのはインターネットのデータを使った自動翻訳でした。しかし、『自動翻訳は言語学の専門家が辞書や文法を監修して作るもので、ネットのデータを使うなどとんでもない』と批判されました。ネットそのものが一般に認められておらず、『やがて消えるだろう。ネット上でビジネスが成立するはずがない。』と言われていたくらいです。」

前職である英会話学校の社長での経験から、日本を言語的ハンディキャップの呪縛から解放したいと考えるようになり、現在の事業につながっていると五石氏は語ります。

「なぜ日本人だけがこんなに苦労しないといけないのか。謂れの無いハンディキャップではないのか。日本人が悪いのではなくて、その状況自体がおかしいのではないかと思い始めたのです。」

同社は3年前に医薬、法律、財務など専門的な文書であれば、プロの文書翻訳者と同等の品質を実現できるようになっています。

講演「コロナ禍におけるコミュニケーションとAI/DX」

話者:株式会社シナモン執行役員フューチャリスト 堀田 創 氏

堀田氏は2008年、AIでPh.D.を取得したエンジニアです。2012年から東南アジアに移住し、シナモンAIのベトナム・台湾拠点にあるラボの統括をしており、同社が抱えるAIリサーチャーは100人以上にも上ります。また、今回のセミナーはマレーシアより参加いたしました。

コロナ禍で加速しているリモートワークの拡大で、社内でのコミュニケーションにも変化が生まれています。例えば、従来はオフィスでの何気ない会話や雑談、ランチなどを通じて、社員同士の人となりや他部署の状況、会社の指示や育成の背景などが共有できていましたが、リモートワークに切り替わることでそれが難しくなっています。

ここで堀田氏がキーワードとして取り上げたのが「共有認知」です。何気ない会話や雑談で共有される背景知識、いわば阿吽の呼吸です。共有認知は生産性に重要な影響を与える要素であることが学術研究でわかっています。リモートワークで共有認知が減少しているため、それを補う取り組みが必要になっていると指摘します。

実際シナモンでは、会社のビジョンやミッションについてはトップダウン型で全社向けに繰り返し説明することで共有を図っています。また、社員間のバックグラウンドやモチベーション相互理解については、1on1ミーティングを数多く実施することで促進しています。

パネルディスカッション

続いて、登壇者の3名のパネルディスカッションが行われました。コロナの影響で社内外のコミュニケーションのあり方や働き方が大きく変わりました。どのように変わり、どんなことに取り組んでいるのか、また重要視していることなどについて活発な意見が交わされました。

家田:コロナの影響で社内外のコミュニケーションや働き方が大きく変わりました。まず、どのような変化を感じていますか。

平野:リモートワークに移行し、効率性、生産性が高まったと感じています。ただ一方で、コミュニケーションという観点ですと新入社員にとっては、先輩社員の顔と名前が一致しなかったり、社内の雰囲気を感じにくかったりといった課題があると思います。

五石氏:当社は創業以来、原則対面での会議は禁止で、意思決定は全てウェブの掲示板上、もしくはチャット上で行ってきました。ただ、リモートワークは実施しておらず、オフィスには出社していました。それがコロナの影響でリモートワークになったわけですが、通勤時間がなくなりましたし、仕事の効率も上がりました。しかし、数カ月して生産性がガタ落ちしていることに気づきました。効率と効果は別物で、効率は上がっても効果は落ちてしまったのです。

家田:リモートワークは、仕事の効率が上がるという面と、自宅では家族がいて集中できない、社員同士の雑談がなくなりアイデアが生まれにくくなったという面があります。社内生産性向上のために、どんなことに取り組みましたでしょうか。

五石氏:雑談からアイデアが生まれるというのはその通りです。リモートワークでは、コミュニケーションの欠如により、それがなくなってしまいました。それだけでなく、社員の意識や方向性もバラバラになってしまうため、生産性が落ちる原因にもなっています。
当社が会議を禁止したのは、特定の人だけが集まって密室で意思決定しないようにするためです。意思決定をする会議の場にいるべき人が加わっていなかったり、意思決定に関係ない人が集まって時間だけが過ぎていったりして、非効率的なところがあるからです。リモートワークは全社員が密室にいることにほかなりませんが、社員がどのように仕事をしているかは全く見えません。指示が伝わっていなかったり、チャットを見落としていたり齟齬が発生し、方向性がバラバラなまま仕事をしていました。

ソフトウェア開発者が2001年に公開した「アジャイルソフトウェア開発宣言」には、開発とマーケティングは同じ場所で一緒に仕事をするという内容が記されています。本来、技術者は非合理的なことを嫌いますから、なぜ一緒に仕事をしなくてはいけないのか疑問に感じていましたが、今はそれがよくわかります。

当社はそうしたことを補うツールとして、VR(仮想現実)空間にオフィスを設けています。VRオフィスでは、物理的なオフィスのようにコミュニケーションがとれます。オンライン会議ツールのように誰かが喋っている間は黙って聞くというものではありません。VRオフィスでは全員が同時に話していても、近くにいる人の声は近くに聞こえるし、遠くにいる人の声は遠くに聞こえます。発言も自由自在です。

平野:シナモンAIでは、ワンオンワンミーティングをかなりの頻度で行っています。15分〜30分の短い時間であっても、チャットに比べると圧倒的に情報量は多いと思います。他にも、オンラインで部門を超えたシャッフルランチをしたりなど、業務外でのコミュニケーションがゼロにならないように施策を行っています。当初はプライベートな会話で終わっていましたが、最近ではオフィスでの会話のように、雑談から仕事の話をするようになってきたと感じます。

家田:ここで、セミナー視聴者の方からの質問です。リモートワークでは雰囲気が伝わりにくいと平野さんは指摘されていましたが、シャッフルランチは意識的に取り組まれていることなのでしょうか。

平野:そうです。シャッフルランチのほか、オフィスに出社する社員もいるので、その場合も会社側で積極的に補助するようにコロナ後に制度を作りました。

堀田氏:経営者側からすると、「雰囲気を伝える」ということと「雰囲気を察知する」ということの二つがあると思います。

雰囲気を伝えるのは難しいので、同じメッセージを繰り返し発言します。繰り返しの回数はリモートワークになって明らかに増えました。オンラインでは場の力を作れませんが、同じことを何回も話すと聞いている側も理解が定着します。録画を使えるようになったのもメリットが大きいと感じます。ある社員に伝えたことを録画しておいて、他の社員に「これを見ておくと背景がわかるよ」と言うと見てくれます。そうすると、繰り返しの回数、伝えるメッセージの総量が増えていきます。

一方、雰囲気を察するという点では、特に人事チームからメンバーへのワンオンワンミーティングを増やしています。社員一人ひとりの抱える課題を把握するために、15分程度の短い時間でも、しっかりとオペレーションを組んでやっています。

家田:視聴者の方から五石さんへの質問です。キーボードが使えない、あるいはホワイトボードが使えないといったVRのデメリットは何かあるのでしょうか。

五石氏:たくさんあります。まだまだ発展途上の技術ですから、不具合が生じることも少なくありません。端的に言うと、通信回線のスピードが遅い、接続が悪いと途中で落ちてしまう、といったものです。一方、便利な点は、ホワイトボードや画像、動画、ウェブサイトなど何でも張り巡らすことができることです。

キーボードが使えないというのはその通りです。仮想空間上にキーボードはありますが、人差し指で押していく感覚で非常に使いにくい。やはり物理的キーボードのほうが慣れていて速い。しかし、いずれそうした欠点も解消されていくでしょう。

家田:業種によって、あるいは業務によってオンライン化できない場合もあります。そうした点で、マネジメントに変化はあるのでしょうか。

平野:オンライン化できない業務はあると思いますし、徐々にオンライン化が可能になる業務もあると思いますが、あるべき姿を考えることがスタートだと思います。状況が目まぐるしく変わっていく中では、迅速な判断が求められています。

そこで当社が重視しているのは、OODA(ウーダ)ループです。Observe(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の略で、米空軍で編み出された意思決定プロセスです。パイロットが攻撃されているときは上司に判断を仰げません。自分で判断を下す必要があるわけです。そのときに、Orientが重要になってきます。メンバーが正しい意思決定をできるかは、経営側がミッションを伝えているかどうかにかかっています。

我々がよく行っているのがフィードフォワードです。フィードバックは、現状に対してこういう課題があると、それに対してこうしていくべきだと考えます。これに対して、フィードフォワードは未来にどうあるべきかを考え、それを実現するために今はこうしていこうと考えていきます。

家田:ITリテラシーの低い人が置き去りにされてしまうという懸念はないでしょうか。また、世代によるITリテラシーが異なる場合、円滑にコミュニケーションをとるために大切なことは何でしょうか。

五石氏:非常識に聞こえるかもしれませんが、マネジメントするとか歩調を合わせるといったことは不要だと思っています。

テクノロジー系の会社に多いのですが、自社で全て製造しようという内製主義は危ういと思います。世界中でさまざまな技術が日進月歩で進化している中では、かえって取り残されてしまうリスクになるからです。

人の場合も同じです。今いる社員をどうにかしようという発想自体が間違いです。世界には優秀な人がいます。社員として労働契約を結ばなくても、特定の勤務地に集まってもらわなくてもいい。適材適所で仕事を割り当てればいいのです。労働契約を結んで、何時から何時まで、必ずここに出勤してくださいといったこと自体が不要になっています。会社や働き方の概念は変わってきていますし、変わっていくべきだと思います。当社で多いのは副業で参加してもらう形です。全てリモートなので問題はありません。

堀田:東南アジアでは自宅にパソコンを持っていない人もいました。ただ、かなりの人が想像以上にITツールを使えるようになっていると思います。

むしろ会社はITツールを使える人しか必要ないというスタンスが強まっています。ITツールを使えないとそこで労働契約が終わります。ITツールを使えることが条件となれば、人間は学習するものです。ですから、会社がそれくらいのスタンスをとるというところから、学習が促進されるのではないでしょうか。実際に学習が促進され、かなりの人がITツールを使えるようになっていると感じます。

家田:ITリテラシーの低い人をどうサポートしていくかという課題はありますが、時代の要請に応える新しい働き方が定着しつつあるということがわかりました。セミナーに参加いただきありがとうございました。

★シナモンAIでは定期的にセミナーを実施しております。