AI時代の働き方に関する思い込み

AIが世の中に浸透することで、人の働き方はどのように変わっていくのか? これについてはいくつかの誤解があると思います。まず、AIは人の仕事を奪うものではなく、あくまで人と協調するであるということ。

ITとAIは似て非なるものです。具体的には、ITとは人が定義したルールの中で動くものであるのに対し、AIはディープラーニングによる直感的なもの。そのためITは対象が限定的ですが、AIは様々なジャンルで使うことができます。そして、それによって生じる一番の違いは、誤差の有無。AIには誤差が付き物なのです。

誤差が生じるというと、AIを取り入れることに不安を覚える人もいるかもしれません。そこでAIで自動化が進んだシステムであっても、部分的な判断やコントロールを人間の手に委ねることで、AIはさらに精度を上げていきます。

たとえばOCRで読み取ったテキストデータについて、精度の心許ない部分に人が修正を加えることで、AIはそれを機械学習し、より作業の精度を高めていきます。つまり、AIが人の作業をアシストする一方で、人はAIを強化するための学習データ作成を担うという相互関係をループさせるという協調関係。

これが「Human-in-the-loop」の考え方であり、AI時代の新しい働き方の一端です。

「Human-in-the-loop」の具体モデル

この「Human-in-the-loop」のモデルは、大きく3パターンが考えられます。

1つは、前述のようにAIが自動出力したものを人がチェックして修正する「検知モデル」。2つ目は、AIチャットボットを使いながら、複雑な受け答えについては人が対応する、「バックアップモデル」。そして3つ目は、AIの確信度をあらかじめ算出し、そのスコアが一定以上の場合はAIが自動出力したものを自動的に反映、一定以下の場合は人がチェックを入れてから反映するという、「監視モデル」です。

実はこの「Human-in-the-loop」は、今もごく身近なところで実際に稼働しています。たとえばグーグル翻訳のインターフェース。翻訳後のワードを表示するボックスの右下に、テキストをコピーするコマンドがあります。これが自動翻訳の精度をさらに高めることに一役買っているのです。

なぜなら、ユーザーはその翻訳精度に納得したときのみ、このコピーボタンを押して翻訳されたテキストを採用します。逆にいえば、明らかに翻訳精度が甘ければ、コピーボタンが押されることはありません。つまり、このモデルでは有用な学習データが自然に溜まり続けることになるわけです。

AI活用によるビジネスチャンスは2025年まで!

こうしたAIの技術は、すでに民主化され始めています。これからの時代、こうした上手なAI活用がビジネスの成否を分かつことは言うまでもありません。

今日では当たり前のように街を走っている自動車にしても、約100年前にフォードがその技術を民主化したことで、私たちの生活に降りてきた経緯があります。同じことが今後、AIの世界でも起こるでしょう。そして、AIの技術が民主化されることで、産業全体にゲームリセットが生じ、企業は戦略の転換を強いられることになります。

実際、すでにアメリカでは、大成功事例がいくつも登場しています。たとえば、AIチャットボットの導入で、わずか数分で加入手続きが完了できるサービスを展開しているオンライン損保会社Lemonadeは、数ヶ月前に上場を果たし、すでに時価総額は4100億円を突破しています。わずか5年前に設立されたばかりの企業であることを踏まえれば、これは驚異的です。

また、自動運転車両のソフトおよびハードを開発するMobileyeは、2017年に約1.7兆円でintelに買収されました。やはり2015年設立であることを考えれば、たった2年でこれほどの価値を作り上げたわけです。これらはいずれもAIを成長戦略にうまく活用した典型でしょう。

同様のチャンスは日本企業にもあるでしょう。ただし、そのタイムリミットは5年。すでに日本でも「2025年の壁」といった表現が使われていますが、ことAIに関しては、向こう5年でおおよその勝負はついてしまうと目されているのです。

だからこそ、AI時代の戦略デザインは極めて重要。では、初期投資をあまりかけずにそれを構築するにはどうすればいいでしょうか?

AIがもたらす5つのエンドバリュー

ここで重要なのは、AIに関する2つ目の誤解を解くこと。それは「技術者だけがAIを深く理解できる」という思い込みです。しかし実際には、ビジネスケースから、AIで何ができるのか、おおよそ理解することは可能です。

たとえば法務を手掛けるアメリカのLawGeex社は、AIの活用で弁護士いらずのサービスを提供しています。弁護士は従来、ひとつの契約書を精査するのに何時間もかけて細部をチェックし、ロジックを検証してきましたが、これはまさにAIの得意分野。機械学習の活用で、それまでの労力や所要時間をばっさりと省力化することに成功しています。

また、同じくアメリカのAgShiftは、食品の品質検査にAIを取り入れている会社です。流通する食品や飲料が、国が定める規格に沿っているかどうかを、商品パッケージの内容欄を撮影し、画像解析によって検査を自動化しています。人力で検査を行なうよりも、はるかにスピーディーであるのは言わずもがなでしょう。

こうした事例から読み解くことができる、AI戦略によって得られるエンドバリューは、突き詰めると、業務効率の改善、リスク削減、売上アップ、UXの向上、そしてR&Dの5つに絞られます。AI戦略を考えるときに、「いまあるデータで何ができるか?」ではなくて、「どのエンドバリューを提供するのか?」を起点に考えていくことが大切なのです。

また、最後のR&Dについては、近年、デジタルツインという言葉をよく耳にするようになりました。デジタルツインとは、フィジカル空間の情報をサイバー空間に送ることで、フィジカル空間の環境をそのまま仮想的に再現することを指しています。

わかりやすいのは自動車メーカーで、新しい自動車を開発する際、同じスペックの自動車を仮想的に作り出し、衝突実験などリアルでは実施しにくいテストを行なうために、デジタルツインの技術が活用され始めています。F1で有名なMaclarenでも、車体のスペックに対して、当該コースをどのように走ることができるか、極めて現実的なシミュレーションが行なわれています。これならテスト中に車を何台壊してもコストはかかりません。

今後、こうした事例はますます増えていくでしょう。AIはすべての産業にとって、決して縁遠いものではありません。AIを企業戦略にどう取り込むかは、これら5つのエンドバリューとビジネスケースから逆算することが可能なのです。

シナモンAI 平野未来シナモンAI 代表取締役社長CEO 平野未来

シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。IOS/ANDROID/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外の様々な賞を受賞。また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。2021年より内閣府経済財政諮問会議専門委員に就任。プライベートでは2児の母。

シナモンAIでは、コンサルティング、ワークショップ、ソリューションの提供を通じて、「AIを競争戦略に結びつける」お手伝いをさせていただいております。ぜひお気軽にお声がけをいただけましたら幸いです。

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